2020年大学入試改革は中受を変える

 

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日経です。

 

2020年度実施を目指す国の大学入試改革の議論を受けて、私立中学の入試に異変が起きているという。中学入試に詳しい安田教育研究所の安田理代表に寄稿してもらった。

 

 2016年度の首都圏の私立中学校入試は、2つの特徴があった。

 1つは、リーマン・ショック以降下がり続けていた受験者数が500人ほどだが増加に転じたことである。受験率(小学校卒業者のうち中学受験した者の割合)も15.5%から15.8%へ0.3ポイントほどアップした。

 受験者数が増えた一因と考えられるのが、20年度に実施が予定される大学入試改革である。具体的にどのような入試になるのか不透明な部分が多いが、出題の内容が「知識・技能」重視型から、「思考力・判断力・表現力」重視型へ大きく変わるとされている。そうなると6年間の中高一貫校が有利になると考えて、中学受験を選んだ家庭が多かったのだろう。

 さらに、この大学入試改革論議が中学入試そのものも大きく変えた。これが、16年度中学入試の2つ目の特徴である。

 中学入試では、進学塾に2、3年通い、2科(国語、算数)ないし4科(2科+理科、社会)を学んで挑むのが、典型的スタイルだ。これに加え、近年は公立中高一貫校が続々と開校し、志願者が増えるにしたがい、その併願先として「適性検査型入試」を行う私立中学が徐々に増えてきた。

 

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 ところが、16年度入試では、これまでの穏やかな変化が一気に加速、多様化が進んだ。英語入試、思考力テスト、ポテンシャル、リベラルアーツ、一能一芸、志、自己決定……。名称だけでは中身が分からない入試が急増したのだ。

 「英語入試」は、進学塾には通っていないが英会話教室には通っていた児童に、中学受験を意識してもらうための入試で、「わが校は進学塾に通っていなくても受験できますよ」というメッセージが込められている。リーマン・ショック以降、経済的な理由で進学塾に通わせる層が減少し受験人口が減っているが、これを何とか克服しようとする私立中学側の工夫の表れといっていい。

 国の大学入試改革の議論では、旧来型の知識・技能中心の学力では、子供たちが生きていくグローバル社会に対応できなくなるという強い危機感が示された。そうした学力観の変化を見据えて生まれたのが「思考力テスト」である。その一例を聖学院中学(東京都)の問題に見てみよう。

 問題は、まずカンボジアの市場の写真(野菜、衣料、肉売り場など)と日本のスーパーの肉売り場の写真が数点示される。それぞれの写真について読み取れることを書かせた後に、次の設問がある。

 「カンボジアの市場のメリット(強み)を考えてみてください。日本の売り場よりも良いと思われる点はどこですか?」

 「あなたがカンボジアで暮らし、このような市場で買い物をして生活をすることになったとき、自分に必要となるスキル(能力)や力は何でしょうか。なるべく具体的に書いてください」

 従来であれば、この種の問題では、日本のスーパーの肉売り場のメリットを答えさせていたと思う。「パックに入っていて衛生的である」とか「一目で量・値段がわかる」といったことだ。だが、ここでは日本のことは聞かず、カンボジアの市場のメリットを問うている。これからのグローバル社会で必要とされる相手側からの視点を受験生に求めているのである。

 入試の多様化は17年度入試ではさらに加速する。表に、代表的な例を10校ほど掲げたが、名称を見てお気づきになったと思う。大学入試改革論議で盛んに取り上げられた「思考力」「表現力」「プレゼンテーション」「学力評価」といった用語のオンパレードである。

 

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 背景には、保護者の大学入試改革への強い関心があり、対応を私立中高一貫校に求めていることがある。入試改革が最終的にどのように決着するのか不透明だからといって、私立中学側がそれに全く触れないでいたら受験先として選んでもらえない。こうした名称の入試の新設は、「わが校は大学入試改革をちゃんと意識していますよ」というわかりやすいメッセージなのである。

 新しいタイプの入試は受験情報誌でも盛んに取り上げられ、名称にインパクトがあるので、いま塾でやっている勉強で大丈夫なのかと動揺する保護者がいる。しかし、こうした入試を採用する中学校でも、募集定員の多くは従来型の2科、4科で取っている。塾に通っているのであれば、それが生かせる入試を選べばいいのだ。むしろこれまで受験の世界に入っていなかった児童こそ、新しいタイプにチャレンジすればいいだろう。

 ただ、ここまで短期間に急増すると、単なる生徒募集の手段として採用しているだけなのか、実際の授業の改革にまでつながっているのか、保護者には見極める目が求められる。中学受験の世界には「入試は1時間目の授業」という言葉がある。その意味をかみしめて、どの中学がいいか、見極めてほしいものだ。

 その一方で、保護者や時代のニーズに合わせるために、急速に私立中学の均質化が進んでいることを危惧している。個々の私学が持っていた固有の文化が、スキル、リテラシーの養成重視で、このところ急速に色あせていると感じている。

 

教育の地域格差が懸念される事態です。