日経です。「プログラミング教育 小学校に必要か」からの
反対意見です。
■受け入れ余力を超える 国立情報学研究所教授 新井紀子氏
――小学校でプログラミング教育が20年度から必修化される方向です。
「考え直したほうがいい。週に2時間だけとか、中途半端に入れるのはいちばんいけない。すでに小学校には外国語教育も中途半端に導入され、カリキュラムはいっぱいだ。子供が吸収できる能力を超えている」
「英語やプログラミング教育を少し導入したら、グローバル人材が育つと考えるのは幻想だ。大人は自分が好きで関心があることや、身を立てた経験があることを子供たちにもさせてみたいと考える。気持ちはわかるが、それは大人の勝手だ。子供たちや学校教育の現場に、受け入れる能力と余裕があるか調べてからでないといけない」
――必修でなければいい?
「ピアノなどの習い事の代わりに学んだり、クラブ活動としてプログラミングに取り組んだりするのは望ましい。スーパーサイエンスハイスクールで理科や数学と並んで情報について学ぶのも歓迎だ」
「文部科学省の有識者会議がまとめた案は、プログラミング教育という科目を新たに設けるとは言っていない。その点に注意してほしい。既存のカリキュラムの中にコンピューターサイエンス的な視点を入れるというのが結論だ」
「例えば算数で習う筆算はアルゴリズムの基本だ。これまではスキルとして筆算を覚えなさいという教え方であったのかもしれないが、なぜこうすると正しい答えが出るのかという別の視点で教える。正しい答えを出すだけなら電卓があればだれでもできる。同様に図工の時間を使って、ロボットを組み立ててプログラムで動かすのもよい」
――いま必要なのは、むしろ文章の読解力だと主張されていますね。
「国立情報学研究所は各地の教育委員会の協力を得て、約1万人の中学生を対象にした読解力のテストを実施している。理科や地理の教科書から例文を集めて正しく理解しているか調べる内容だ。まだ初期的なまとめの段階だが、教科書がきちんと読めない子供が半分くらいいるとわかってきた。主語がわからない、指示代名詞が何を指しているのかがわからない。現場の先生は気がついており、文科省も危機感を持っている」
「実は海外も同じ課題を抱えている。フランスは教科書や契約書など論理的に書かれた文書をきちんと読め理解できるようにしたいと考え、アナリティック・リーディング(分析的な読み方)を教えることを重視している」
「人工知能(AI)と人間の違いは高度な読解力にある。AIはふわっとした文章は読める。しかし、係り受けが複雑で抽象度が高い文書は、ビッグデータと機械学習という今のAI開発のやり方では読めないだろう」
――AIに負けないためにも読解力が要る?
「仮にあなたが転職を志してシステムエンジニアや公務員になろうとしたら、本やeラーニングでその分野の知識を勉強しなくてはならない。初めて読むテキストは最初は苦労するだろうが、読みこなしていかねばならない。流動性の高い世の中では読解力を備えて生涯学習できる能力が最も大事だ。読めるというのは漢字が読めストーリーが追えることだけではない。辞書さえあれば、論理的、抽象的に書かれた文章をきちんと理解できるということだ」
――読解力に時間を割いても学力テストでは点数が上がらないかもしれません。
「短期的な成果を求めてはいけない。ゲーム的な問題解決ではなく、考えるための時間が要る。ゆとり教育とは違った観点から教育内容のリストラが必要だ」
「世間では情報技術者が足りないというが、知識の更新を自力でできず、仕様書も正しく読めないようなプログラマーではたいしてお金を稼げない。プログラムに欠陥があってトラブルを起こす原因はたいていの場合、仕様書がきちんと読めていないからではないか。プログラミングの覚えは少々あるものの、論理的な文章は読めませんという新入社員を産業界も望んではいないだろう」
「グーグルの成功の端緒は、ウェブ検索の手法を比較的簡単な数学を使って大きく改善したことにあった。現実社会の問題を数学に結び付けて解く力だ。そうした論理的な思考力や論理的に書かれた文書を読解する力はプログラマーに限らず、だれにとっても大事な能力だと言える」
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