日経です。
人工知能(AI)の発達に伴い、仕事のあり方や求められる能力は今後変わっていく可能性が高い。文部科学省は大学入試を思考力重視に転換するといった改革を検討している。東大合格を目指すAI「東ロボくん」のプロジェクトを率いる国立情報学研究所の新井紀子教授は、大学教育の前提として中学校段階での読解力引き上げこそが必要だと主張する。
――AIの発達に対応し、大学ではどんな教育をすべきでしょうか。
「大学で対応できる状態にはないという認識に最近なってきた。40万人の高校3年生が受けた昨年のセンター試験模試で東ロボくんは上位2割に入る成績だった。ではAIが賢くなったかといえば、違う。計算や暗記はよくできるが、言語理解はまだ極めて低いレベルにある。日本語の『が』や『と』などの助詞には複数の使い方があるが、正しいものを選べないので、文章を理解する能力はまだ非常に低い」
「にもかかわらず上位に入るのは変だと思い、中高生を対象に教科書の文章を読めているのか調査した。地理の教科書からつくった問題で正解を選んだ中学生は53%にすぎなかった(表)。調査に協力してくれた市の教育委員会や校長もショックを受けている。まだデータを分析中だが、たぶん半分くらいの生徒は教科書を読めていない」
――国語力、読解力が低下しているのですか。
「過去に同様の調査がないので比較はできない。受験生の日本語力が低いといわれてきたが、ここまで低いとは想定していなかった。AIは問題文の意味は理解できず、キーワードの検索などを手掛かりにして解答する。意味を理解できるのが人間だが、成績の良くない生徒はAIと同じような浅い読み方しかできておらず、それではAIに負けても仕方ない」
「家庭環境がかつてとは激変している。家の中に新聞や本がないとか、食事時に大人と会話する習慣がないといった状況で、学校だけで言語運用能力を培えるのかという難しい問題もある」
トップ層も低下
――上位層の読解力は落ちていないのでは。
「東ロボくんは昨年、東大実践模試も受けた。世界史の配点26点の論述問題では9点を獲得し、平均の4.3点を上回った。答案に意味不明なところも多かったのに人より良かったのは、人も相当おかしなことを書いていたためと想像される。トップクラスの生徒の言語運用能力は落ちていないという想定は間違っていると思う」
――センター試験に代わる入試で記述式の導入が検討されています。
「記述式試験を目指して勉強させることは重要だが、それに向けて教科書を読めるようにしておかないと、意味不明の答案が8割といった状態に陥るだろう。中学生が教科書を読めているかを調べたのは我々が初めて。現状を把握しないまま、理念先行で改革しても失敗する。入試を変えても売り手市場なので、大学は定員を埋めるため、白紙の受験生も受け入れるしかない」
「高卒段階の学力をここまで持っていきたければ、小学校でどこまで、中学校でどこまでと精緻に詰めていかないと、高卒段階は決まらないし、実態を踏まえずに勝手に決めても動かない」
まず入り口改善
――AIに対応するための教育改革は主に大学が想定されています。
「どの部分を直さないと出口の人材保証ができないのか、実態を把握する必要がある。大学の主な問題は、学生が大学教育を受けられる状態で入ってきていないことにある。大学教育は学生が自分で教科書を読んで勉強できることが前提だが、そうなっていない。初年次教育と称して、小学校でやるようなことをまた教えたりするのはあまりに効率が悪すぎる」
――では、どうすべきでしょうか。
「大学の入り口の状況を改善するには、中学卒業までに中学の教科書を読めるようにし、高校では普通の文章を書けるようにする必要がある。教科書も読めないのにプログラミング教育とか、やっている場合ではない」
「我々は『すべての生徒が中学校段階で中学の教科書を読める』を目標に、東ロボくんとは別のプロジェクトを立ち上げた。教科書から採った文章をきちんと読めているかを診断し、読めない理由を分析して欠けている部分を補う教育方法をつくり出していきたい。中学校段階できちんと読むことができれば、いくらでも学力は伸ばせる。それができて初めて、大学での国際化やコミュニケーション力の強化といった取り組みが生きてくると思う」
今までのところ今年最高の記事です。新しいプロジェクトに注目です。
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