東京大学総長の五神真氏の高大接続システム改革会議への意見書です。
全文転載します。
「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」に関し、記述式問題の導入の可否 という個別の論点にとらわれることにより、高大接続システム改革の目的・意義 を見失うことのないよう、丁寧な議論と実現可能性の検討をすすめて頂きたい。 以下の通り意見を提出いたしますので、議論の参考として頂ければ幸いです。 東京大学における取り組み 東京大学は、「自ら主体的に学び、各分野で創造的役割を果たす人間へと成長 していこうとする意志を持った学生」を求め、入学試験においては「知識を詰め こむことよりも、持っている知識を関連づけて解を導く能力の高さを重視し」 (東京大学アドミッションポリシー)、文科・理科ともに4教科・2日間にわた る記述式試験を長年にわたり実施してきた。 本学では、入試問題は日本の高等学校、高校生全体に対する最も重要なメッセ ージと位置づけ、毎年、教員の総力を結集して作問と採点に当たってきた。記述 式の出題によって、断片的な知識や表面的な技能ではなく、思考力・判断力・表 現力を多面的に評価することが可能であることを確認している。またこれに応 えるための受験生の努力が、論理的な思考力と文章表現力を鍛えることに役立 っていることは確かである。 長年実施してきた経験から、記述式試験は、大学と受験生との出題、解答、採 点を通じた「対話」であるということを強調したい。その対話を成り立たせるた めには、作問者には解答者の学力を的確に測れる問題の作成能力が求められ、採 点者には解答の論理を読み込み、解答者の学力を測る能力が必要である。これら の能力の育成には、大学教員といえども一朝一夕にはいかないということを実 感している。入学試験という場面において、公平性と公正性を担保することの重 要性は論を俟たない。その中で記述式試験の機能を発揮させるためには、作問、 採点において十分な能力を有する教員を一定数確保することが必要であり、受 験者が 9 千名弱の東京大学の 2 次試験の実施においても、研究所を含む全学す べての部局の協力によって何とか確保している状況である。 「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」における課題と提言 今般の教育再生実行会議提言、中教審答申の理念を踏まえ、高等学校教育、大 学教育、大学入学者選抜の一体的改革を行い、その柱の一つに「大学入学希望者 2 学力評価テスト(仮称)」の導入を位置づけ、「大学入学に向けた学びを、知識 や解法パターンの単なる暗記・適用などの受動的なものから、学んだ知識や技能 を統合しながら問題の発見・解決に取り組む、より能動的なものへと改革する」 (中間まとめ)ことを目指していることに、意を強くしている。その中で、「統 合的な思考力や表現力」の育成が重要であることを高等学校、高校生に広く伝え ていくという趣旨は重要であり、その方策として、記述式問題導入に効果を期待 することは理解できる。 しかし、50万人以上を対象とする規模の選抜試験において、記述式問題の特 長を活かして「出題者と解答者の対話を実現すること」と「公平性と公正性を担 保すること」を両立させることは、過去に世界でも例のない難題であり、大変野 心的な社会実験となることを良く了解しておかねばならない。成功させるため には、十分な人的財政的資源を国民の広い理解のもとで準備することが必須の 前提となる。日本の教育システム全体への不可逆な影響を与えるものとなるの で、未来への確実な投資につなげるための周到な用意が必要である。 既にCBTの導入も視野に入れた議論がなされているが、出題採点の新しい 手法およびそれを大規模に実施するためには、新技術とシステム開発が必要で ある。試験技法やICT技術の専門家を含めた、十分な議論の上で進めることを 強く希望する。 折しも、第5期科学技術基本計画では世界に先駆けた「超スマート社会」の実 現が掲げられ、その基盤技術としてAI技術等の進展も期待されている。新しい 試験で必要となる新技術・システムは、こうした学術的・技術上の開発課題と極 めて整合するものである。そこで、高大接続システム改革という枠に閉じるのではなく、より幅広い科学技術戦略の中での投資と位置づけ、着実な資金確保を積 極的にはかるべきである。また、大規模共通試験という場を最大限に活用し、日 本人のICTリテラシーの抜本的強化や高度ICT人材育成機能強化に資する 教育システムを世界に先駆けて導入することなど、社会システム改革の国家戦 略としての視点も持つべきである。 このように、入試の抜本改革には様々な開発要素を含むが、高大接続システム の改革は急務である。一方で現行のセンター試験が50万人規模の受験生を対象として、高度な公平性・公正性を保証する世界にも例のない試験として機能していることの資産価値を過小評価してはならない。まずこの資源を活用した着実な改革にすぐに着手しなければならない。合わせて、新システムの実施に向けたしっかりとした予算確保を行う。特に、第五期科学技術基本計画や成長戦略と 呼応した形で、集中的な研究開発を進めるべきである。
要旨は以下です。
①東大は二次試験に記述試験を長年実施してきたが、記述試験を50万人規模の大学受験生全体に拡げるのはかなり難しいのではないか。
②記述試験をコンピュータベースで実施するのであれば、それ相応の予算を伴った国家プロジェクトとして取り組むべきである。
②現行のセンター試験に評価すべき点が多々ある。
初めての推薦入試を実施し、入試改革の先頭に立つ東大総長の意見に全く同感です。記述にこだわって、採点の民間委託など噴飯ものです。
センター試験を改善して、複数回受験を可能にすることと各大学の二次試験を記述を含めて充実化することが急務なのはだれでも理解できます。
このこととAO・推薦入試を組み合わせて、多様な受験方式の選択肢を受験生に与えることが肝要です。
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