図は,学習レベルと各学習項目の貢献度の関係を示したもので参考になる。1)

ここでは,学習に大きな影響を与える学習項目として,語彙(vocabulary),文法 (grammar),発音 (pronunciation),流暢さ (fluency),社会言語学的要素 (sociolinguistic) の5つの要素を挙げている。社会言語学的要素とは,たとえば,a truant officer(学校をずる休みして街を歩き回っている生徒を補導する補導係),a sign-out sheet(構内から退出する際に署名する退出簿)などのように,特定の社会環境で使われる言語表現の中に見られるものである。
図の横軸に示されている言語能力レベルはだいたい次の通りである。
Level 0 | 言語能力ゼロ |
Level 1 | 片言で何とか用が足せるレベル(高校レベル) |
Level 2 | かなり高い学習レベル(大学レベル) |
Level 3 | 実用レベル |
Level 4 | 最高実用レベル |
Level 5 | 教育ある native speaker のレベル |
縦軸の数字は,学習に対するそれぞれの学習項目の貢献度を比率(percentage)で示したものである。これは学習の絶対量を示したものではなく,学習の絶対量は低い能力レベルでは少なく,高い能力レベルではきわめて多くなる。
この図によると,各学習レベルにおける学習目標は次の通りである。
Level 1
語彙の学習(45%)が最重要であり,これに次いで重要なのが文法の学習(30%),発音の学習(17%)である。このレベルでは,何はともあれ基本語彙を丸暗記しなければ一歩も先に進むことができない。文法は動詞・名詞・形容詞・副詞などの変化形・5文型などを含む基本文法である。
Level 2
文法と語彙の学習の重要度が逆転し,文法(40%)が最重要学習事項になり,語彙(35%)がこれに続く。この段階では,より複雑な内容を理解したり,表現したりしなければならないため,単語の知識だけでは歯が立たなくなる。より複雑な構文の知識が必要である。発音(10%)はまだ不十分ではあるが,最低のコミュニケーションに利用できるレベルにはすでに達しているので,文法・語彙ほど重要ではなくなっている。注目すべきことは流暢さ(8%),つまりスピードの学習が重要さを増していることである。
Level 3
文法(37%)・語彙(25%)の重要度は変わらないが,流暢さ(18%)・社会言語学的要素(14%)の急上昇はめざましい。それぞれの学習量は大幅に増えているが,比率的に見ると全体的にバランスがとれてきている。
Level 4
ほとんど native speaker に近いレベルなので,すべての要素が均等に重要になってくる。ただしその中でも文法(25%)の比率が高いのは,複雑な内容としっかりした論理を示すため必要であるからである。この段階になると,流暢さと社会言語学的要素(ともに
20%)が目立って重要になる。社会言語学的要素は単なる言語学習だけではなかなか自由に使いこなすことはできない。そのコミュニティ内での生活習慣に感覚的に慣れ親しんでおく必要がある。これらの事実を体得するためには,直接経験または間接的な疑似経験を通じて行わなければならない。したがって,これらの学習をするためには必然的に多くの時間を必要とする。言語習得には長時間・長期間の学習が必要であるとよく言われるが,その理由はここにもあるのである。
Level 5
教育ある native speaker のレベルである。この段階では,すべての学習項目が完全なバランスをとって完成されているので,それぞれ等しく20%の比率になっている。
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